『段々降りてゆく  ──九州の地に根を張る7組の表現者』熊本市現代美術館

『段々降りてゆく ──九州の地に根を張る7組の表現者』熊本市現代美術館

2021.4.18

熊本市現代美術館では2021年3月27日(土)~6月13日(日)『段々降りてゆく  ──九州の地に根を張る7組の表現者』が開催されている。九州を拠点に自らの生きる環境に根差した問題意識を持って主体的な活動を行う7組の表現者を紹介する展覧会だ。タイトルになっている『段々降りてゆく』とは熊本出身の詩人・谷川雁(たにがわがん)の詩論の一節から用いられていることも、この展示を読み解く手がかりだろう。

現代の美術・芸術と聞くと難解だと思われる方もいらっしゃると思う。そこで本展の企画者で熊本市現代美術館の学芸員、佐々木玄太郎さんに館内を案内していただきながら今回の展示への想い、見かた、楽しみ方を聞いた。

聞き手/NASSEオンライン編集部 森下 文

今回作品が展示される7組の表現者を紹介

加藤笑平 KATO Showhey
1983年生まれ 東京出身 長崎県野母崎在住。

身の回りにあるモチーフで作品を作る。ときにそれは廃材の類であったりいわゆるゴミから始まるものもある。なぜ生きているのか、視点を変えて外して作品を作ると加藤さんは言う。自身が経験したあらゆるもの同士の関係、そこから広がるイメージを身体で受け止めながら大胆に形にしていく。

 

すうひゃん。 Soohyang.
1974年生まれ 東京出身 宮崎県綾町在住。

2011年の東日本大震災を機に夫の故郷である宮崎県綾町に家族で移住。しかし彼は2019年に突然この世を去ってしまう。東京での活動や都会的なものがリアリティーではなくなった彼女は、日頃ほとんど出ることのないこの町で、一番身近である自身の周囲の子供たちを描き始めた。

 

畑直幸 HATA Naoyuki
1979年生まれ 岐阜出身 大分県杵築市山香在住。

自宅の裏庭には彼が撮影のためにスプレーで塗りつぶしたグレーの林が広がっている。それをカラーで撮影することにより、色彩はないのに不思議なイメージが浮かび上がる。被写体、光、写真機などにイレギュラーな操作を加えながら、視覚を使って「見る」とはどういうことかを私たちに問う。

 

オレクトロニカ Olectronica
2009年結成。加藤亮(1984年生まれ 大分出身)と児玉順平(1984年生まれ 熊本出身)による美術ユニット。大分県竹田を拠点に活動。

「生活と制作」がテーマ。ジャンルも舞台も幅広く、ときには「オレクトロニカランド」と称して独立を宣言し巨大な人形を打ち立てる。ものづくりが盛んな竹田で「竹田アートカルチャー」プロジェクトを始めるなど、そこにあるものと調和しながら、地に足のついた活動で独自の文化環境を形成する。

 

宮本華子 MIYAMOTO Hanako
1987年生まれ 熊本県荒尾市出身 ベルリン在住。

「家族」や「家」、「他者とのつながり」といったテーマに対峙する作品を主に手がけてきた。背景には幼少期以来の自身の父との解決しがたい軋轢がある。一見美しく見えるドレスやカーテンの刺繍は彼女自身に刻まれた呪いのようなもの。その中でも故郷の有明海はわずかな救いとしてあるのかもしれない。

 

HOTEL ASIA PROJECT
2011年から北九州のスペースGALLERY SOAPが中心となり各地のアーティスト、キュレーター、研究者などと協働し展開するプロジェクト。

いろんな国籍の人が行き交う一種のプラットホームが「HOTEL ASIA PROJECT」。各自が北九州を含む各地域の歴史的・社会的背景を掘り下げ、多ジャンルに渡る活動を行う。今回の展示は、ディズニーランドのスローガンである地上で最も幸福な場所「The Happiest Place on Earth」がテーマ。

 

山内光枝 YAMAUCHI Terue
1982年生まれ 福岡県糟屋郡出身 同地在住。

2010年頃、裸の海女が海辺にたたずむ一枚の古い写真と出会い衝撃を受け、それから海に生きる人々を追いかけ、根源的な人間のあり方を形にすることを試みている。今回は日本統治下の「フザン」に住んだ自らの家族史に向き合い、現在の自分を確かめながら言葉をつむいでいく。

 

この展覧会の企画者、熊本市現代美術館学芸員の佐々木玄太郎さんに聞いた

──この展示を企画・準備された時期はコロナで大変だったのでは。

そうですね。展覧会を企画するときには、調査のために各地の作家のアトリエを訪問したりするのですが、今回は何かと制約も多かったです。九州の作家のグループ展をやろうという構想は23年くらい前から持っていたのですが、実際にこの展覧会のための調査を始めることができたのは1年前くらいでしょうか。

コロナ禍もあってどこにでも行けるわけではなかったので、それぞれの地域に詳しい人たちにオンラインで話を聴かせていただいて情報を集めながら、動けるようになったら各地を訪れて作家に会いに行くために計画を立てていました。

──「段々降りてゆく」のテーマについて教えてください。

地味なタイトルですよね(笑)。でも地味であろうとも、自分やその生きる場所の根源にあるものへと向かって、地道に一歩一歩進んでいこうとするのが大事なのではないか、ということでこのタイトルを掲げました。

今は「アートで地域振興に貢献する」とか「アート思考をビジネスに活かす」といった発想が流行っていて、それも悪くはないと思うのですが、一方で、芸術というのは基本的には外からミッションを与えられてやるものではないんじゃないか、という意識もあって。

たとえば経済活動は誰かのニーズを起点として行われるかもしれないけれど、芸術活動はそうではなくて、むしろ「誰に求められるわけでもないのに」自分の関心や問題意識を掘り下げていったりする。それによって、経済活動では起こりえない何かを発生させてしまうこともある、というのが芸術の芸術たる所以かもしれないと思っています。

──展示で苦労されたことは。

この加藤さんの展示は苦労しましたよ…(笑)。これは美術館という場所ではけっこうハードルの高い作品でした。というのは、加藤さんは廃材などを使って作品を作るのですが、その廃材と一緒に虫やカビが美術館内に入らないように対策をする必要があってたいへんでした。具体的にいえば、まず状態的に館内に入れられない資材は選り分けて、館内に入れる資材は事前にきれいに掃除をして薬をかけるなどして処置をしました。

そして絵のサイズが大きいので輸送も大変でしたね。普通は大きい絵は画面を分割して制作するんですが、加藤さんはそれをしたくないとのことで(笑)。

でも展覧会の構成としては、加藤さんを最初にもってきてインパクトを出そうと思っていたので、できるだけ見る人が驚くようなものにしたくて、加藤さんのダイナミックな構想を可能な限り実現できるように努力しました。

──私たちと同じ九州の、同時代に生きる作家の作品は興味がわきます。

同じ地域に住んでいる作家とは近い感覚があって、作品も直感的に理解しやすいことはあるかなと思います。問題意識とか関心とか感性とかも比較的近いところにあると感じるかもしれません。

一方で、複雑でハイコンテクストなことをやっている作家や作品もあって、理解が難しいと感じることもあるとは思いますが。そんなものに触れるのも楽しんでもらえればうれしいです。

──美術館も同じ、この地に根ざしたものですよね。

地元の作家や出来事をしっかり追っていくことは、現代美術館の大切な仕事だと思っています。外の優れたものを見せて刺激をもたらすことも必要だと思いますが、同時に「これが自分たちの時代に自分たちが生み出したものだ」と言えるものを、地元で作家たちと一緒に作っていく活動をしっかりやっていきたいという意識はありますね。

九州には現代美術館という存在は他にあまりないので、自分たちが頑張んなきゃという使命感みたいなものもあるかもしれません。

──現代アートと聞くと“難しそう”というイメージを持つ方も多いと思います。

そうですね。でも見かたはいろいろあって、例えば「自分の家に置くならどれがいいかな」とか「1個だけ持って帰っていいよって言われたらどれにするか」とか、そういう見かたでもいいと思います。

もちろん企画者や作家はいろいろ考えてやっていますが、必ずそれに沿って見なければいけないというわけではありません。一緒に来た人と「これがいい」「なんで?」みたいに話しながら、視点や感じることがそれぞれ違うことを面白がるのもよいと思います。

──ではさらに一歩深く見るには?

基本的にはまず解説などを読んでみることでしょうか。作家がそこで何をしようとしているのかを理解した上で作品を見ると、単に作品だけを見たときとは印象が大きく変わってくることもあります。

それから、1人の作家の作品を見る場合でも、1点だけではなく複数の作品を見比べていくことで見えてくるものもあると思います。別々の作品の中にも、同じ要素と違う要素があり、作家がどこに興味があって何をしようとしているのか、その焦点、意図、関心の在処が見えてきたりします。

──自分自身も「段々降りてゆく」ようにじっくりと、何度か足を運びたい展示だと思いました。

ありがとうございます。今回は映像も多いし、解説パネルの字数も多いし、作家自身のテキストもあるし、全体の情報量がかなり多いです。作家たちも気合が入っていて、1本の展覧会にいろいろ詰めこまれているので、見る側も力を消費する展示だとは思います。

──観終わってあまりの情報量に脱力で(笑)。でもこの疲労感は刺激大のインプットでした。

自分と近いものを感じて「わかる!」という作品もあれば、「何故そんなことを?」「意味分からん…」っていう作家や作品もあると思うんですよ。「理解不能だけど、九州にはこんな人もいるんだな」っていう感想でもいいと思います。いろんな可能性があるというのを見せているつもりなので、いろんな刺激を受けてもらえればと。

美術館では展覧会をやって数年後とかに「昔、○○の展示を観て影響を受けました」って言われることもあるので、そういう反応がどこかで起こるとすごく嬉しいなっていうのは常に思っています。

「自分は実物を見られることに美術館という場所の強みがあると思っている。事前にネットで見ていた作品も、改めて実物を見ると断然こっちがいいなと思うことが多い」と佐々木さん。ぜひ美術館に足を運んで実際の作品と対峙してほしい。

本展「段々降りてゆく」の招待券をペア5組にプレゼントいたします。締切は430日(金)18:00まで。ご応募はこちらより、お待ちしております。(4/30締め切りました)

 

『段々降りてゆく ──九州の地に根を張る7組の表現者』
会期:2021年3月27日(土)〜6月13日(日)
会場:熊本市現代美術館 ギャラリーⅠ・Ⅱ
開館時間:10:00〜20:00(展覧会入場は19:30まで)
休館日:火曜日、5/6(木)ただし5/4(火・祝)は開館
https://www.camk.jp
※熊本市の医療緊急事態宣言の発出により4月27日(火)から当面の間、臨時休館中