vol.4 愛すべき「名探偵」たち

vol.4 愛すべき「名探偵」たち

2021.6.9

ミステリはお好きですか?ちびすけは好きです。

シャーロック・ホームズ、エルキュール・ポアロ、エラリー・クイーンに金田一耕助。ミス・マープルにペリー・メイスン、ジーヴスに刑事コロンボ、明智小五郎…ぱぱっと思いつくだけでも触れてきた「名探偵」はたくさんいます(刑事とか弁護士とかも混ざってますが)。古典と言われるこれらの方々以外にも、現代になるともう数え切れないくらい「名探偵」がいますよね。小説以外でも漫画、テレビでも老若男女の名探偵たちが活躍しています。

「名探偵」の魅力はなんと言ってもそのキャラクターにあると思います。推理力とかミステリの構成とか「騙された!」という面白さ、「そうだったのか!」という爽快感などももちろん重要ですが、なんと言ってもホームズ役やワトソン役(すでにポジション名になっている、名作の力よ…!)の個性や魅力が作品を引っ張ります。あの探偵が謎を解くところを見たいわけです。
もっと言うならあの探偵の私生活も見たい、過去とかもあるなら知りたい、いつもクールなあの人がびっくりしたり微笑んだり意外なことをしていたりしていないか知りたい(こうなってくるとただの変態に近いファンかも知れない)。

好きすぎて前置きが長くなりましたが、今までの読書遍歴の中でもとりわけ魅力的だと感じた「名探偵」3人を今回はご紹介します。
あ、全員肩書は「名探偵」ではないです。今回はキャラクター重視で選んでます。あしからず。

クリスマスのフロスト

フロスト警部シリーズの第1作「クリスマスのフロスト」。イギリスではTVドラマ化もされている人気シリーズです。作者のR・D・ウィングフィールドは放送作家もしていた方で、それだけにキャラクターの重要性を認識していたのでしょう。このフロスト警部、本当に魅力的!残念なことに筆者は2007年に亡くなっているので、シリーズは6作品でおしまいです。

さて、フロスト警部がどう魅力的なのかを語る前にあらすじを紹介すると、「デントンという田舎町で続発する大小さまざまな事件を、不屈の仕事中毒にして下品きわまる名物警部のフロストが大奮闘して解決へ持ち込む(時に力技あり)」といったもの。
ざっくり過ぎてわかりませんね。すみません。

舞台設定としては、クリスマス。日曜学校からの帰途、突然姿を消した少女、銀行の玄関を深夜金梃でこじ開けようとする謎の人物。上にへつらい部下に当たり散らし、予算と人員を削りに削り現場を圧迫するしみったれ署長。これらの敵と謎に対するは、不敵でだらしなく、下品なジョークが大好きで、上司には反抗的。書類仕事が大嫌いで出世欲は皆無。部下や同僚には誠実で、なにより無力な被害者にはこの上なく優しい照れ屋の正義漢フロスト警部。書類仕事が嫌いすぎて(本当は家庭の事情でお金が必要な同僚の手取りアップのため)同僚に手柄を譲ったりするのもまたいい。
数々の言葉遊びや造語、隠語を見事に訳す翻訳者・芹沢恵氏の力もあって、非常に魅力的に仕上がっているフロスト警部はファンの心をガッチリ掴んで離さない。

このシリーズの特徴として、複数の事件が同時進行で起こり、絡み合ったり無関係だったりしながら解決されていくことがあります。意外な出来事がつながって事件がドミノ倒しのようになったりすることもあり。
ギリギリまで解決されるとは思えないトラブルが引っ張られ、最後の最後鮮やかに解決されるという名人芸にも注目したいところ。
この下品で不遜なおっちゃんが気に入ったら、「フロスト日和」「夜のフロスト」「フロスト気質(上・下)」「冬のフロスト(上・下)」「フロスト始末(上・下)」もぜひ。どれも分厚いですが、気にならないくらい面白いです。

ちなみにこのシリーズで得た一番のトリビアは「イギリスだと刑事は出がらしの紅茶(ティーバッグ)に更にお湯入れて飲むんだ」ってことでした。アメリカだと「泥水のようなコーヒー」ですよね。どっちも不味そう…。

 

パイは小さな秘密を運ぶ

11歳の金髪お下げ髪の少女フレーヴィアが探偵役のシリーズ。少女が探偵役というところが少々変わっているが、ミステリらしいミステリと言えると思う。

フレーヴィアは化学と毒物をこよなく愛し、自分の弱さを決して認めず、復讐の作法も知っている少女。 仲の悪い姉の口紅にウルシオールを練り込んだりするが、心根は(たぶん)優しい。そんな彼女の家の庭で、深夜父と言い争っていた見知らぬ男が殺されていたのが事件の始まり。 殺したのは果たして誰なのか、殺された男は父と何の関係があったのか。機知と勇気に富んだ、こまっしゃくれた少女が大人を出し抜きつつ謎を解いてゆく。

興味のある方には、化学の知識や毒物の知識もたまらなく面白いのではないだろうか(個人的にはとっても面白かった)

フレーヴィアの家族は全員そうなのだが、愛情表現をとにかくしない(特に父親)。苦手なんだか照れくさいんだかわからないが、イギリスの名家ってそんなんだろうか。ただ感情が無いわけではなく、時々ダムが決壊したかのようにポロッと本音を漏らしたりもする。
大人顔負けなほどに賢いのに、時に哀しくなるほど幼い一面を見せる彼女が大変に可愛い。

今の所出ているのは6作品目(「人形遣いと絞首台」「水晶玉は嘘をつく?」「サンタクロースは雪のなか」「春にはすべての謎が解ける」「不思議なキジのサンドウィッチ」)まで。こちらは以下続刊なので、楽しみに待っているところ。最新刊ではフレーヴィア自身も知らなかった、ルース家の末娘であるという意味が明らかになる。ターニングポイント的な1冊なのだが、ものすごく続きが気になる。早く刊行して欲しい。

空飛ぶ馬

「円紫さんと私シリーズ」は落語の師匠である春桜亭円紫さんと女子大生である「私」が繰り広げる「日常の謎」系ミステリ。ホームズ役は円紫師匠でワトスン役が女子大生の「私」になる。人死がでたりしないこのシリーズは、時に苦い後味の話もあるものの基本的に気楽に読んで楽しめる。

第一作である「空飛ぶ馬」(1994年)に続いて「夜の蝉」「秋の花」「六の宮の姫君」と順調に刊行され、4年おいて「朝霧」、13年おいて「太宰治の辞書」が2017年に刊行された。最初は女子大生だった「私」も、卒業して編集者になり、妻となり母となったりして、時間の流れを感じさせもする(特にリアルタイムで読んで追いかけていたので、我が身を顧みたりして余計に…)。

好みもあるだろうが、個人的には初期の4冊が特に好き。日常の何気ない風景に埋もれそうになる「不可思議な謎」。それを切り出して謎として差し出し、円紫師匠が非常に論理的にするすると解いてみせる流れはお見事。一つ一つに落語の話が絡んで、ものすごく落語を聴いてみたくもなる。
本を読むのは誰にでもできるし、ある程度楽しめることだけど、背景にある物語を知っていたり知識があると余計に楽しいことがあるのもまた事実。知識は物語を深めてくれるのだ(この辺「和菓子のアン」シリーズでも思ったな)。

元国語教師だったという筆者の来歴のせいか国文学についての知識も深く、読んでて非常に勉強になる(もしくは勉強するきっかけになる)シリーズかも知れない。

終わりに

さて、今回はイギリスの名物警部、11歳のおさげの少女、落語の師匠という異色の「名探偵」を集めてみましたがいかがでしたでしょうか?
本当ならもっともっと多くの「名探偵」をご紹介したかったのですがキリがなくなってしまうので、涙を飲んでキャラクター重視で絞らせていただきました。
そして気づくと出版社も偏っているという…偶然なんですけどね。さすがはミステリの老舗出版社ですよね。粒ぞろいで本当にいい作品が揃っています(回し者じゃないですよ)。

長々と綴ってしまいましたが、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
次回またお会いしましょう。

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